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最高裁判所第二小法廷 昭和48年(オ)794号 判決

上告人

丸山幸輔

右訴訟代理人

松井道夫

被上告人

直江津海陸運送株式会社

右代表者

佐藤脩吾

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人松井道夫の上告理由第一から第三までについて

論旨は、法令の解釈の誤り、判断遺脱をいうが、その実質は、原審の証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠及び説示に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。また、論旨は、原審が、上告人が申し立てない事項について判断をした違法をいうが、右違法は、結局、判決の結論に影響を及ぼさないものというべきである。論旨は、採用することができない。

同第四について

原審が適法に確定したところによれば、被上告会社の定款には、「株主又はその法定代理人は、他の出席株主を代理人としてその議決権を行使することができる。」旨の規定があり、被上告会社の本件株主総会において、株主である新潟県、直江津市、日本通運株式会社がその職員又は従業員に議決権を代理行使させたが、これらの使用人は、地方公共団体又は会社という組織のなかの一員として上司の命令に服する義務を負い、議決権の代理行使に当たつて法人である右株主の代表者の意図に反するような行動をすることはできないようになつているというのである。このように、株式会社が定款をもつて株主総会における議決権行使の代理人の資格を当該会社の株主に限る旨定めた場合において、当該会社の株主である県、市、株式会社がその職員又は従業員を代理人として株主総会に出席させた上、議決権を行使させても、原審認定のような事実関係の下においては、右定款の規定に反しないと解するのが相当である。けだし、右のような定款の規定は、株主総会が株主以外の第三者によつて攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨に出たものであり、株主である県、市、株式会社がその職員又は従業員を代理人として株主総会に出席させた上、議決権を行使させても、特段の事情のない限り、株主総会が攪乱され会社の利益が害されるおそれはなく、かえつて、右のような職員又は従業員による議決権の代理行使を認めないとすれば、株主としての意見を株主総会の決議の上に十分に反映することができず、事実上議決権行使の機会を奪うに等しく、不当な結果をもたらすからである。論旨は、これと異なる前提に立つて原判決を論難するものであつて、採用することができない。

同第五について

株主総会決議取消しの訴えを提起した後、商法二四八条一項所定の期間経過後に新たな取消事由を追加主張することは許されないと解するのが相当である。けだし、取消しを求められた決議は、たとえ瑕疵があるとしても、取り消されるまでは一応有効のものとして取り扱われ、会社の業務は右決議を基礎に執行されるのであつて、その意味で、右規定は、瑕疵のある決議の効力を早期に明確にさせるためその取消しの訴えを提起することができる期間を決議の日から三カ月と制限するものであり、また、新たな取消事由の追加主張を時機に遅れない限り無制限に許すとすれば、会社は当該決議が取り消されるのか否かについて予測を立てることが困難となり、決議の執行が不安定になるといわざるを得ないのであつて、そのため、瑕疵のある決議の効力を早期に明確にさせるという右規定の趣旨は没却されてしまうことを考えると、右所定の期間は、決議の瑕疵の主張を制限したものと解すべきであるからである。

したがつて、船木セツの議決権行使を被上告会社が認めなかつたのは違法である旨の第一、二審における上告人の主張は、本件決議取消しの訴えの提起期間経過後に新たに追加されたものであるから許されないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。また論旨は、原判決の裁量棄却の判断の違法をいうが、判決に影響を及ぼさない点を論難するものにすぎず、論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(本林讓 岡原昌男 大塚喜一郎 吉田豊 栗本一夫)

上告代理人松井道夫の上告理由

第一〜第三〈省略〉

第四、原判決は上告人の定款二一条違反の主張に対し、「これらの使用人は官庁あるいは会社という組織体の一員として上命下服の規制を受け、上級者(窮極においては代表者その他執行機関)の意図にいさゝかも背くことが出来ないようになつているのであつて云々」と判示しているが、官庁あるいは会社においても使用人によつては相当の自由裁量を委せられている者のあることは顕著な事実であり、特に本件の場合総会に出席した使用人はいずれも白紙委任を受けているのであり(各議案について賛否の結論をつけて委任されているならば格別)、代表者自身の出席の場合と、議決権行使の内容結果に相当の差異が生ずる事が予想されるから、原審の右説示は定款二一条違反の上告人主張を排斥する理由とはなり得ない(乙第七号証一、二、三参照)。

第五、船木セツの代理権行使を認めなかつたのは違法であるとの上告人の主張について。

(一) 第一審判決は「上告人の右主張は昭和四三年一二月二三日受付の準備書面において始めてなされ、右準備書面は昭和四四年一月一四日の口頭弁論期日において陳述されたことは訴訟上明らかである。ところで株主総会決議取消の訴は商法第二四八条第一項により訴提起期間が定められており、云々、この期間は決議の瑕疵の主張そのものを制限したものとみるべきで、この期間後に新たな取消原因を追加することは許されないと解するを相当とする。上告人の右主張は本件取消の訴の提起期間を経過した後になされたことが明らかであるから、許されないものである」と判示し、原審も之の解釈を取つている。

1 右の解釈は何等法律上の根拠が無く、且必ずしも有力な学説とも云い難い。

2 右上告人の主張は上告人の定款二一条違反の主張に対する被告の主張に関連して提出されたもので、必ずしも全然新規な主張と見るのは当らない(上告人の昭和四七年五月二二日付準備書面第三参照)。

(二) 原審は「株主亡船木義一の相続人船木智子の不在者財産管理人船木セツの代理行使すべき株式数は僅か一、六八〇株であるところ、本件株主総会における出席株主の株式数は、委任状によるものを含めて百三万余株であつたから、右僅か一、六八〇株の株主権の行使が右総会の決議に影響が及んだとは考えられず、また船木セツによる右株主権の代理行使に当つても同人において議案の内容に重大な関心を寄せて評決に影響を与える言動をしたのであろうとも思えないので、仮に船木セツの右代理議決権行使が上告人主張のように制限されたとしてもそれは本件総会決議を取り消すことが出来る程の事由とはいえないものと云うべきである」との趣旨を判示している。

然し、

1 本件決議を成立せしめるには百万株を必要とするところ、本件決議は百一万二、七九四株を以て辛うじて成立したものであることは前述した。即ち必要株式数を超えること僅か一万二、七九四株に過ぎない。船木セツの代理行使する株式数一、六八〇株はその一三パーセント強に当る。

2 本件議案は超特別決議(商法第三四八条)を要する商法上最重要議案である。

よつて原判決が本件総会決議を取消すことができる程の事由とはいえないのは甚しい独断で何等の根拠がない。

3 株主総会決議取消の訴に関する旧商法第二五一条のいわゆる裁判所の裁量規定が削除(昭和二五年法第一六七号)された経過を見れば、裁判所の決議取消についての裁量を認めない趣旨と解すべきである(田中(誠)松元「新しい商事判例の解説と批評」企業会計第八巻三号、昭和三一年一一月一五日最高裁判決、集一〇巻、一一号一、四二三頁参照)。

尚違法の原因なかりせば決議なかりしなるべきことを要しないとするのは多数説である。

以上何れの点においても原判決は破棄を免れない。

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